8月2日(上演1日目)に上演された劇には,共通して「愛」を観ることができました。

 丸子修学館高校「Kには,フランツ・カフカの作品を通して,カフカ自身とその父親との間の不器用な親子愛が描かれていました。前半では厳格でカフカにとって大きな存在だった父親が,後半の病気で寝込んでいるカフカを気に掛ける場面では,作中に出てきた「愛情の反対は無関心」という言葉が示すように,父親は息子のことを愛していたということが伝わってきました。

 名取北高校「好きにならずにはいられない」には、話の途中に震災による津波が出てきます。津波が来た直後に、アキが母親の制止も聞かずに瓦礫の中で大好きな妹と父親を必死に探す場面では、そこで上がった悲痛な叫びに、忘れてはいけないことがあるということを思い出させてくれました。その後サチに愛されていたことを知り、生きることを頑張ろうと決意したタマの姿から,人の愛情は人に生きる勇気を与えてくれる、ということを感じました。

 北見北斗高校「ちょっと小噺」は劇の中で、伝統的な文化である落語を愛する4人の高校生が出てきます。部の存続に関わる一大事の中、部活動に熱中するその姿には、同じ部活動生として共感を覚えるところがありました。仲のいい友達がいて,大好きな落語があって,クラスで過ごすよりも,部活動でならより楽しく過ごせるということを,自分と重ね合わせた講評委員も多くいました。

 さくら静修高校「自転車道行曾根崎心中」では、自転車に乗っている等身大の高校生たちが出てきます。しかし、原子力による汚染物質を彷彿とさせる黒い箱の出現によって,クラスのみんなは次第にバラバラになってしまいます。近松門左衛門の「曽根崎心中」で,お初と徳兵衛が愛するがゆえに二人で命を絶ったように,最後にクラスにたった一人残る希は「この町が好きだから」といって自転車を漕ぎ,町と共に進みだすシーンでは、この勇気ある選択の背後には地元への愛を感じることができました。

 瓊浦高校「南十字星」は戦争の中に生きた人々が描かれていました。主人公の保科は最後に絞首刑へ向かう前,南十字星が光る中で,未来に向けて力強いメッセージを発します。その場面からは今を生きる私たちに「まかせた」と言っているように見え、またその姿に祖国日本や人間対する深い愛情を感じ、小道具や背景、照明などの効果も細かいところにまで気を使っていて、より説得力ありました。

8月3日(上演2日目)に上演された劇には、メッセージ性を持つものや観客に考えさせるものが多くありました。

 沼田高校「うしろのしょうめんだあれ」には、広島原爆のことを忘れてほしくないというメッセージがこめられていました。舞台にあった6本の柱が檻や柵のように見え、それが原爆の被害の重さや現実から逃れられないということを表現していてまた、役者の演技が丁寧であったことにより、演じる側のメッセージを受け取ることができました。さらに、照明効果により幻想感や原爆が爆発した瞬間の光がとてもリアルに表現されていました。

 鶴見商業高校「ROCK U!」には、「在日朝鮮人」だからといって別のものとして見るのではなく、同じ者として見て欲しいというメッセージが込められていました。以前通っていた学校の教育方針にとらわれている「在日朝鮮人」のミレ。病気の妹の世話と学校との両立ができず限界を感じているあゆ。それぞれに悩みを持っているクラスメートたちは居場所を見つけることができました。居場所を求めることは立場、国境民族を超えてもあると思います。また、さすがは大阪人と思わせるほど劇に元気や勢いがあり、客席を引っ張っていました。

 高田高校「マスク」は、集団の中での自分とは何かを考えさせられました。過去のコンプレックスを抱える女子高生のアケミは、普通とは何かという疑問を抱えています。普通が一番と自分の個性を抑え込むクラスメートたち、そんな彼らがいる教室の圧迫感や圧力は、現代に生きる私たちに個性をもっと表に出してほしいというメッセージを感じました。

 東高校「桶屋はどうなる」では、放射能による影響や食べ物の突然変異について取り上げられていました。誰もが嫌うゴキブリのチャバネと、突然変異をしてしまったベジ子という、人間とは違う存在だからこそ、食べ物を軽視している人間の身勝手さを教えられました。フラフープで内臓を表現したり、赤と青のひもで遺伝子を表現していたり小道具の使い方が工夫がされていました。たった2人という少ないキャストで様々な工夫で客席を沸かせたことは素晴らしいと感激しました。

 城ノ内高校「三歳からのアポトーシス」は、生物学や量子力学などテーマがたくさん詰まっている劇でありました。たった4人のキャストで12人のキャラクターを演じており、さらに内容が複雑なこの作品を演じようとしたことに勇気と度胸を感じました。1番魅力を感じたのは照明です。舞台上は薄暗くて、檻のようなものやポツンと置かれた片方だけの靴などのさまざまな舞台装置や小道具が並んでいて、脳みその模様に見えた緑や赤の模様がついた照明、小道具や役者が本当に消えたかの様にフェイドアウトされるピンスポ、それらが合わさることで、現実の世界とは違う幻想的な雰囲気がうまく表現されていました。

8月4日(上演3日目)に上演された劇には郷土愛と、日本全土に対するメッセージを感じました。

 八重山高校の「О(ラブ)~ここがわったーぬ愛島~」は、沖縄の中の石垣島という舞台で地域の事柄を取り上げて、地域のことをよく知ってもらいたいという気持ちが伝わってきました。一人々の名前をそれぞれの島の名前にすることで郷土愛がより一層伝わってきました。ひとつひとつの動きが丁寧で細かい動きにも気を使っていて、常に会場の笑いが絶えず、楽しんでほしいという思いを感じました。

 出雲高校の「ガッコの階段物語」は、震災のことは日本中が考えて支えていかなくてはいけないよ、という日本全土に訴えているような感じがしました。
 震災という大きなテーマに至るまでの過程に、震災で亡くなられた方たちの思いや願望を感じ取ることができ、道具のひとつひとつにも意味が込められていて、アルバムに対するガッコの思いや、助かってしまった人たちの心情、助かることができなかった方たちの願いなども込められているのではないかと感じました。

 最後に、今年の大会は現代に生きる私たち、若者に強く訴えかけるものが多くあったと思います。そのことを全国各地に持って帰って感じたことを伝えてくださったらうれしいです。講評を通して私たち生徒講評委員は出場校のみなさんのげきからたくさんの思いを受け取りました。


 この三日間、本当に楽しく活発な講評ができたとおもいます。
 最後まで聞いてくださってありがとうございました。



生徒講評委員会講評文

全体講評

















































































上演1 長野県丸子修学館高等学校


上演2 宮城県名取北高等学校


上演3 北海道北見北斗高等学校


上演4 栃木県立さくら清修高等学校


上演5 瓊浦高等学校


上演6 広島市立沼田高等学校


上演7 大阪市立鶴見商業高等学校


上演8 高田高等学校(三重)


上演9 東京都立東高等学校


上演10 徳島県立城ノ内高等学校


上演11 沖縄県立八重山高等学校


上演12 島根県立出雲高等学校