第58回 富山大会
| ■ 大会審査結果 | |||
|
第五十八回全国高等学校演劇大会は、富山県富山市、富山県民会館を会場として、八月十日から十二日にかけて行われました。会場には毎日、早朝から観劇のための列が長く伸び、全ステージ満席の盛況でした。特設されたモニター映像によるサブ会場も常に多くの人が熱い舞台に見入っていました。
昨年、震災によって開催さえもが危ぶまれた福島大会が、東日本大震災復興支援香川大会という形で、全ての出場校が上演できた事を、全国の高校演劇の仲間は、しっかりと受け継いでいこうと決意し、今大会にのぞみました。開催県の富山県実行委員会の生徒、顧問の皆さんは、その先頭に立って細やかな準備態勢を整えていただき、総合開会式の上演から総力をあげて運営にあたっていただきました。生徒講評委員会の活動も着実に成長を遂げていきました。公開会場には、上演後傍聴する人たちがあふれ、講評委員たちの率直で、誠実な劇評に、あらためて上演された舞台の感動を心に刻むことができました。 震災後、私達は演劇で何を表現するのか、演劇をすることの意味は何なのか、そのこととしっかりと向き合ってきました。その一年間で作られた全国ブロック代表十二校の舞台は、それだけに本当に真摯で、重厚で、そしてまた繊細な舞台となりました。審査にあたっていただいた先生方は、上演ごとに講評委員の活動に耳を傾けたり、相互の批評をたたかわせたりされていました。そして、最終日の審査会において、まず、各審査員に優秀と思われる四校をあげていただきました。その結果が別表です。満票を得た二校と、続く三校の中から、優秀校の対象四校を選出することになり、選考の具体的な議論が深まりました。 その中で、まず大船高校の「新釈姥捨山《が審査員の評価を集めました。何より、その圧倒的な舞台を埋め尽くす舞台装置、キャスト、生演奏の技術、歌など、高校演劇の水準を遙かに超える舞台成果が一様に評価の対象となりました。さらに、「新釈《たるゆえんについても議論は進みました。深沢七郎氏の原作における土着性と批評性が、河童を登場させることによって、村人たちの生と死に寄り添う視点が明らかにされ、そこに「新釈《のヒューマニズムの視点が現れているという点が高く評価されました。 作新学院高校「It's a small world《は、何よりその作品作りの妙に評価が集まりました。舞台装置もその世界を見事に表出しており、見えている各面の段差は細かく考えられ、傑出した装置と言えるとの評価でした。演技も達者であり、普通のことを普通に演じられることが素晴らしいと感じられる舞台と言えるとの声がありました。 岐阜農林高校の「掌(たなごころ)~あした卒業式《は農業高校ならではの視点から創作されるぶどうや、きゅうりの精などの造形が効果的であり、身体性に裏打ちされたディテイルを感じることができるとの声が続きました。作品の作り方としても、高校生の思いが詰め込まれ、展開、進め方などにはある種の類型性を感じるところもあるが、表現は直球で感動する舞台となっているとの評価でした。 震災の年に作られた舞台が、全国から集まってきたなかで選考するときに、その主題でないと選考されないのか、という点が気にならないわけではないが、岐阜農林の作品が、死に寄り添うしかない現状を正直に語っている作品であることは審査員の誰もが認めるところであり、普通の高校生の小さな世界を見事に切り取った作新学院の舞台を評価しつつも、優秀校には岐阜農林を推すことで一致しました。 最初の投票で満票を得た二校から最優秀校を選考する議論では、ともにその作品が震災で生き残った者の「生《を取り上げていることと、いずれの舞台も高い成果を上げた舞台であることから、一つに絞ることの難しさに直面しました。 八千代高校の「日の丸水産(HINOMARU FISHERY)~ヒミコ、日野家を語る~《の戯曲のすばらしさは審査員の全員が一致するところでした。直接被災したのではない他県の人間が、震災と向き合い、それをどのように描いていくのか、そこに作者は、歴史を題材とすることによって当事者が語りきれないものを語ることに成功している。また、その舞台も、作品をしっかりと理解して、踊りのヤマ場で着替えの場面を見せて、その決意を表出させるところ、そしてラストに生き残った者としての声が届くところに、見事な舞台であると評価されました。ただ、語りと演者の二役をするゆえの、テンポの問題や、姉妹の踊りを舞台前に持ってきた方が良かったのではないかなど、演出的な意見がいくつか出されました。 青森中央高校の「もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ《を呼んだら《は、素晴らしい集団演技と批評性に優れた演出で観客を魅了したことが何よりも高く評価されました。震災後、舞台を作り上げることに関わる人々が、今、なぜ演劇なのかを問うていたときに、何もなくてもできると言うことを見せたこと、そして、そこにこそ舞台表現の豊かさというものがあるのだと言うことを示したことが何より意義深いと言うことです。また、重いテーマの作品であるが、戦死した沢村投手がボールを投げることができた、という描き方も、生き残った人間の責めを見据えつつも、前を向いて歩いていくというラストのメッセージのすばらしさにつながり、感動の作品に仕上がっていたと絶賛されました。 こうして、最終的な作品選考では青森中央高校に最優秀賞、八千代高校の作者タカハシナオコ氏には創作脚本賞を贈ることで一致し、舞台美術賞は、作品の主題と世界を見事に造形した作新学院高校に贈ることで一致しました。 その後の審査員講評で、こうした作品批評をふまえて、青森中央高校の「もしイタ《が上演され、それをその会場で全国の仲間が見たと言うことは、今年の演劇のひとつの事件であると指摘されました。この一言に、今大会の意義が象徴的に語られているのではないでしょうか。 |
【最優秀賞(文部科学大臣賞・全国高等学校演劇協議会会長賞)】 ☆青森県立青森中央高等学校 畑澤聖悟作 「もしイタ ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ《を呼んだら《 【優秀賞(文化庁長官賞・全国高等学校演劇協議会会長賞)】(上演順) ☆神奈川県立大船高等学校 のまさとる作 「新釈姥捨山《 (原作 深沢七郎「楢山節考《) ☆千葉県立八千代高等学校 タカハシナオコ作 「日の丸水産(HINOMARU FISHERY) ~ヒミコ、日野家を語る~《 ☆岐阜県立岐阜農林高等学校 同校演劇部作 「掌(たなごころ)~あした卒業式~《 【優良賞(全国高等学校演劇協議会 会長賞)】(上演順) ☆富山県立富山中部高等学校 宇津川ジン作 「我歴《 ☆宮崎県立佐土原高等学校 泊 篤志作、長尾直紀潤色 「あーさんと動物の話《 ☆北海道苫小牧南高等学校 乳井有史作 「恐竜れたー《 ☆土佐高等学校 竹内 葵作 「化粧落し《 ☆島根県立三刀屋高等学校 亀尾佳宏作 「ヤマタノオロチ外伝《 ☆作新学院高等学校 高村千怜・伊集院青空作 「It's a small world《 ☆奈良県立法隆寺国際高等学校 原田 裕作 「森のひと《 ☆大谷高等学校 前田悠子 作 「はみーご!《 【創作脚本賞】 ☆「日の丸水産(HINOMARU FISHERY~ヒミコ、日野家を語る~《の作者 タカハシナオコ氏 【舞台美術賞】 ☆作新学院高等学校 以上 |
||