第59回 長崎大会によせて 

揚村洋一郎

 第37回全国高等学校総合文化祭演劇部門・第59回全国高等学校演劇大会が長崎市において8月2日から4日の3日間にわたって開催されることになりました。全国8ブロックより推薦を受けた11校に開催県の長崎からの1校を加えた12校の作品が長崎市公会堂で上演されます。
 「長崎しおかぜ総文祭」は「集え長崎 帆を張れ 文化の船に」というスローガンのも
と、演劇部門をはじめ、高等学校文化連盟の全ての部門の代表校がここ長崎県に集い、1年間の部活動の集大成を披露します。約二万人の高校生の参加が見込まれる国内最大級の高校生文化の祭典の開幕です。
 演劇部の生徒は新たな世界の創造に大きな喜びを感じています。既成の脚本を自分たちの視点で見直し、新たな世界を舞台上に構築した作品、小説や物語を脚色し、舞台上に具現化した作品、また、劇作りの始めの一歩から自らの思いをしたた
め、本邦初演の創作作品等、様々な脚本をもとにしています。それらが舞台の上で上演されたときには、新しい世界となってわれわれを感動させてくれます。
 彼らは、常に自分たちの創造する演劇の質的向上を追及しているのです。なぜならば、彼らは単に自分たちの芝居を上演するだけの喜びにとどまらず、観客の皆さんと感動を共有することを強く求めているからです。したがって、皆さんの笑いや涙、そして拍手が彼らの熱演に対する大きな糧となります。どうかご自分がお受けになった感動を、許された範囲内でストレートに表してください。
 皆様もご承知のように、本大会への道のりは、昨年の秋の地区大会から始まり、その後都道府県大会への出場が決まり、ブロック大会を経て全国大会に臨むという、コンクール形式をもって各大会が運営されています。その審査には地区大会から専門家が当たっています。そのため、演出・演技、装置、音響・照明等といった演劇の総合的な見地に立って、専門的な判断や講評を仰ぐことができます。つまり、本大会の出場校は、各大会において自分たちの創った演劇について、専門的な立場からご指導・ご助言をいただき、それらも参考にして1年間かけて入念に創ってきた芝居を上演するのです。これが1年間の演劇部の活動の集大成と呼ぶ所以です。また、このようなコンクールを積み重ねることが演劇作りの質的向上につながるのです。
 

 本大会は、指導者講習会の性格も有しています。最終日の午後に、審査員を講師とした創作・演出・舞台美術・最近の演劇状況・部活動をテーマとしたワークショップや講習会に、生徒講評委員会の合評会を加えた6つの分科会を用意しました。毎年、顧問の先生方から、大いに参考になるとご意見を頂いております。このような様々な講習会・研修会は、従来から各都道府県の高等学校演劇協議会でも開催されており、演劇作りの質的向上を支えてきました。
 以上のような、昨年度の取り組みの結果、長崎大会が開催されます。代表校の演劇を満喫するとともに、演劇活動を通して生徒及び関係者の方々の交流が深まり、文字通り創造の舞台が繰り広げられる事と思われます。
 高校演劇に取り組まれてこられた方々の、これまでの努力に思いを馳せながら、本大会を楽しみたいと思います。
 結びに、今回の全国大会の開催に当たり、長崎県の実行委員会の皆様をはじめ、大会運営にかかわってくださったすべての関係者の皆様、そして、全国高校演劇協議会事務局の方々のご尽力に深く感謝申し上げます。

(全国高等学校演劇協議会会長)
(日本橋女学館中学校・高等学校校長)


ようこそしおかぜ総文祭へ

宮崎 芳之

集え長崎  帆を張れ 文化の船に

第37回全国高校総合文化祭
第59回全国高等学校演劇大会


「2013長崎しおかぜ総文祭全国高校演劇大会」に全国からご参加の皆様、ようこそ異国情緒豊かな長崎へおいでくださいました。心から歓迎申し上げます。
 長崎は皆様ご存じの通り坂本龍馬が幕末に活躍した舞台でもあります。歴史ゆかしきこの地で演劇の全国大会が開催され、こうして皆様方をお迎えできましたことをこの上ない喜びと感じております。
 開催に当たっては、担当者一同心を一つにして準備を進めてまいりましたが、これもひとえに、全国高等学校演劇協議会始め関係者の皆様方のお力添えのお陰だと心から感謝申し上げます。遠くから、長崎の地へ何度となく足を運び指導に当たってくださったあの熱意には頭が下がる思いでいっぱいです。
 会を運営するに当たっては昨年の開催県富山の皆様にも多くのことを教えていただきありがたく思っています。大会に携わる生徒諸君の爽やかな笑顔でのもてなしや、それぞれが役割を担い、真心でお客様に接する姿に感動いたしました。演ずる、裏方で支えるスタッフ、そして指導に当たる教職員、関係者が心を一つにしての素晴らしい運営であったと思います。
 

 

演劇に関して全くの門外漢である私にとって、昨年の富山大会での高校演劇との出会いは新しい人生が開けたかのような強いインパクトを受けました。高校生のあのひたむきで一生懸命な演技は、人間愛にあふれた人と人との心のふれあいや命の大切さなど、今の若者たちに忘れ去られようとしている大切な何かを発信しているかのように思えました。また、現代社会が抱える諸問題に立ち向かう純粋で真剣な姿は、見ている者に感動と勇気を与え、我々大人も多くのことを考えさせられました。新鮮でかつエネルギッシュな中にも繊細で感性豊かに演じる高校生諸君の姿は日本の未来を予感させる魅力たっぷりで素晴らしいものだったと思います。
 今年も、この長崎の地で展開される演劇創造活動が地域や国の枠を超えた「文化の架け橋」として友情を育み、夢と希望に満ちた平和な未来を創るための「叡智」となることを期待します。そして、高校時代のよき思い出として、いつまでも心に残る大会となることを願っています。
 おわりに、高校演劇界の今後益々のご発展をお祈りしますとともに、各校の部員の皆さん始め顧問の先生方、関係者の皆様のこの一年間のご労苦に敬意と感謝を申し上げ、更には、来年度のご活躍を期待申し上げましてあいさつといたします。


(第37回全国高等学校総合文化祭演劇部門会長)
(学校法人瓊浦高等学校長)

 

風は西から吹く

山口 敦

 異国情緒あふれる長崎にようこそ。長崎の街は古くから世界に開かれた東西文化交流の窓口として発展してきました。現在でも中国を初めオランダ、ポルトガルなど異国文化の香りを色濃く残しています。
 会場となる長崎市公会堂は、開館50周年を迎え、老朽化などの理由により、惜しまれながら数年後には取り壊されることが決定しています。昭和モダン建築の傑作にして、長崎市の文化的な復興・繁栄の舞台が解体されるのは残念ですが、高校生が関わる全国レベルのイベントとしては、おそらく最後になると思います。その国際色豊かなこの長崎で、第59回全国高等学校演劇大会という大きな舞台づくりに関わることが出来ることは、成功させなければならないという大きな責任感以上に、非常に名誉なことだと思っています。
 今日、相手と直接向き合うことのない、メールなどでの「ことば」のやりとりや、自己を語る「ことば」を持たない未熟な言語能力など、大切な「ことば」の価値が失われつつあると感じています。演劇では宝石のように輝く「ことば」、あるいは鉛のように沈鬱な「ことば」が綺羅星のごとく鋭く観る者の心に突き刺さってきます。たくさんの本物の「ことば」たちが迫ってきます。
 そもそも、「演劇」は古代ギリシャの時代から人間が感じ考えたことを伝え、ともに感動した場であったと言います。つまり人間にとってもっとも原初的な伝達と思索、そして感動共有の装置であったといえます。しかし、最近ではこの感動の喜びを得る過程での大きな困難の前に立ちすくみ、突き進むことをあきらめてしまいがちな場面に出くわすことがあります。

 「演劇」は脚本作りから初めて、劇を演じる人、舞台裏で劇を支える人、舞台装置を考えて照明や音響効果・演出をする人等、総力を挙げて創造することに意味があると思っています。さらに、舞台で演じる人だけでは成り立たず、スタッフ・キャスト・観客との相互作用によって、舞台およびホールという空間に新しい芸術が生み出されると考えています。そこに生み出される新たなコミュニティーが、価値観の混迷の時代だと言われる現代にあって、社会の羅針盤としても大きな意義を持っていると思います。
 富山で全国高演協旗を受け取ってから約1年。それからの1年間は瞬く間に過ぎていきました。全国の諸先生方から様々なご助言を頂きながら、長崎県実行委員会を上げて準備を進めてきました。いよいよ全国大会開催の日を迎えます。長崎市公会堂に集う人たちに多くの感動を残し、この長崎のこの舞台で、長崎から全国に向かって新しい「風」を吹かせることが出来る大会でありたいと思っています。

(第37回全国高等学校総合文化祭演劇部門部会代表委員)

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