タイトル   復刊第90号(静岡大会特集号)Web版

10.第一分科会
劇作は関係と モチベーション
講師 衛 紀生   鈴江 俊郎   高山 真樹

 

 演劇とは関係のアートです。AとBの二人がいてそれぞれが物語る、説教するんじゃない。AとBの関係の中に物語ができる。そこにCが現れるとABの新しい側面 がわかる。あるいはCが去ると、ABにとってCがなんだったかわかる。関係が大切です。関係の中に物語を組み込む。
 関係の中にメイン・ストーリーを作り、書かれないサブ・テキストを組み込んで奥行きを出す。物語の半分は観客が作るものです。書く方は百%書きたくなる。特に高校演劇は最後に何かつけたがる。まとめたがる。それがなければ客の方で受け取って、想像できるのに。余韻を残すのが大切だと思います。
 ウエストサイド物語のアーサー・ローレンツは、「エンターテインメントとは、心を動かすことだ」 と言っています。笑わせたり、泣かせたりじゃない。物語を客にゆだねて、客の心を動かすことです。
 「こんにちは」「こんにちは」「元気」「元気」、このやりとりだけで、言い方を変えれば百通 りの物語が出来る。すべて言わなくても関係がわかってくる。舞台の上というより、客席の中に物語が生まれてくるのです。
 後、若い人の作品は枝葉ばかり先に出来て、幹が折れそうなのがある。モチーフをねばり強く通 していって、幹をしっかり据えて、しかも言い切らない。アンビバレンツな、矛盾することですが、大切だと思います。
高山  長崎の被爆者(女性)が、長い年月を経てから、どうしても残さないとと思って書いた手記を朗読。数日お世話になった家の防空壕で、自分だけが助かり、家の人は熱線による、触れないほどの火傷で亡くなっていく様子。
 素人だけれど物書きとしての強いモチベーションと長い発酵の後に生まれた作品。しずかにぽつぽつと話す方が、残酷な様子はよく伝わったりする。第三者的な目を持つことが、表現を支える。
鈴江  芝居は一割台本、九割役者と思っています。その一割の劇作ですが、モチベーションがすべてではと思います。  テクニックは種々あるし、経験によってうまくもなります。たとえば、最初の十分で設定を示せ。女子だけでは恋愛を避ける。長ゼリフは受けで切れ。第三者(客の代理)を入れると、自分について 説明しやすい。小道具を持たせて、リアリティーを出せ。
 これらを心得ているプロの作品より高校生の方が面白い時もある。モチベーションの高さの違いのせいだと思います。いい脚本はモチベーションが高い。
 モチベーションのもとは何でもいい。人に愛されたい。もてたい。なんて一番ですね。劇作家はおおむね不細工なのが多い。みなさん高校生の時は、特に男の子なんか異性のことばかり考えているんじゃないですか。僕もそうでした。そんな時、「鈴江君って、お芝居書いてるんだって」「なかなかいいらしいわよ」「鈴江君、今度見せて」ってなるんですよね。
 芝居を演じ、楽しむのにもモチベーションは大切です。お芝居は誰にでも書けます。自分の脚本は世界一だ。プラス思考が大事ですね。自己暗示で人は動けるようになる。うちこむ姿は美しい。