復刊99号 福井(鯖江)大会特集号  WEB版


舞台美術講評     土屋 茂昭


●「りんごの木」 黒袖でホリゾントを狭め、緑と太い綱によるりんごの木のアクティングエリアのバランスつくりを成功させている。風・雪・台風等が持ち出す小道具一つ一つにそれぞれのアイデアと演出があり丁寧な発想が見て取れる。ただ、本質のりんごの木の成長が脚立の大小で表現されていたがここにこそもっとアイデアが欲しかった。●「Leaving School〜振り返ることなく、胸をはって〜」 装置の省略と写実のバランスが良くできていた。会場の間口に左右されない装置間口の取り方は大切。職員室への転換が良く計算されている。ワゴンつくりの壁面の消え方や黒幕の開け方等スピード感もあり、転換を一つの場面として感じさせる流れを持っていた。●「美術室より愛を込めて」 間口いっぱいに丁寧に美術室と準備室が飾り込んであり、挿入される映像劇中劇との二重構造の展開に、現実世界としての説得力を感じた。劇中、バックから紗幕に投影される映像は、方法と実際の効果が合致していた。実際の劇中劇となった時の上手・下手のレンガ塀の装置は蛇足ぎみ。●「贋作 マクベス」 ホリゾントの前に、シーツのような布を三枚棒からぶら下げた装置。センターの布には、何となく切れ目が入れてある。全体的にいい加減ぽい構成。幕裏からの出はけや幕裏での移動も意図があるのかないのか解らないが、なんとも作品の質と相まって面白い。ただ、幕の上や、幕の下、影とか計算された立体的な使い方を工夫してほしい。●「愛すべき蛙たち」 日常的な居間と台所と食卓をリアルに端正に作ってある。幕開きの、黒い空間に日常を切り取った様に浮かび上がらせる照明の使い方や、転換まで意図的に場面化してみせるなど、ビジュアル的なイメージを大事に作った感じはあるが、カット割りのようなこのイメージモンタージュが作品的に成功したかは疑問が残る。●「クラゲクライシス」 黒バックで、上手に椅子と机、移動黒板には文芸部の言葉。後半には、これらもなくなる。最高にシンプルな舞台。ただ、何もない事と空間をイメージしない事とは別の事なので、間口を詰める工夫や何もなくなる意味をこめた後半の変化を工夫してほしかった。●「どよ雨びは晴れ」 手をかけて教室が作り込まれている。正面の黒板の大きさが飾りだけでなく芝居にも生かされており、半開きの窓や教壇など教室を丁寧に作った事がこの芝居の効果に貢献していた。照明的には、時間の変化や心の変化、立体感などうるさくならない程度に挑戦してほしい。 ●「ぽっくりさん」黒バックにドアパネルと窓パネルだけの装置。ぽっくりさんの登場や最後の窓からの投身場面など、黒バックにした事で照明上の効果があった。全体に省略の仕方は中途半端。窓も黒いパネルに枠だけとかのほうがより象徴的になったのでは。ぽっくりさんの黒のだぶだぶ服の衣裳にも工夫が欲しい。●「心の向こうに」小樽・家庭・教室・公園・教室と五場面を装置で飾り替える構成だが、物語の構成も含めて、場面数は、整理した方が良かった。街灯は良くできていたが、全体に省略の仕方が少々ぶっきらぼうに見えるので転換も含めてもっと丁寧な発想を望みたい。●「しこみ〜おいしいラーメンの作り方〜」 ブロック塀の描き込みといい屋台の作りといい、手が込んでリアルな仕上がり。舞台構成としては、間口に左右されず塀に角度をとって奥行きのある飾りにした方が、演出にも奥行きを与えられた。照明変化にも細かいこだわりも見えたが、演出全体の優先順位を整理する必要がある。●「モンタージュ〜はじまりの記憶〜」 美しい舞台。立ち木や草むらなどのポエティックな表現は、舞台空間全体にイメージがある事がわかる。下手の高見と穴とスロープは、今回唯一の高低差を利用した登退場だったが全体のコンセプトとの統一感にもう少し工夫が欲しい。