復刊99号 福井(鯖江)大会特集号  WEB版


審査員講評
福井大会を振り返って 加 藤  隆

 関東でやっている「高校演劇サマーフェスティバル」の最終日をサボって台風の中福井入りした。巨大な赤いメガネを戴くメガネ会館の向いが会場だった。
 会場は例年より小さめで、大人数の演技や大きな装置も身近に感じられ、限られた装置の少人数の舞台もそれなりに成立し得る大きさであった。それに演技者の声もよく聞こえた。このためか、どの上演もよい成果を上げ、大会は充実したものになったと思う。
 今年は審査員なのでそれなりに仕事はするのだが、わざわざ鯖江まで来たぞ。北海道も沖縄もか。みんなよく来たよく来た良くやった。頑張ったな。みんな伸びろよ大きくなれよ。応援してるぞ、信じてるぞ。そうだそうだ、いいんだよ。ここまで来ればもういいじゃんか。
 ここは一つ「みいんな花丸」の立場で大会を上演作品ごとに振り返ってみよう。
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『りんごの木』
 総勢二十名を越す出演者が一丸となって様々なアイデアを次々と見事にこなし、よくぞここまでと
唸らせてくれた。ここまで完成されていながら、誰もが楽しめる作品に仕上げたのは天晴れ。
『Leaving School〜振り返ることなく、胸をはって〜』
 演出・演技・美術ともバランス良く細部まで気が配られており心憎い。テーマを掘り下げるのではなく、笑いに流れていった後半は残念であったが、大変よく出来た楽しい舞台で、私は十分堪能した。
『美術室より愛を込めて』
 リアルな日常風景と映像表現、「す」に近い演技者とデフォルメされた演技。様々な相容れない表現の併置から現実の女子高生、高校が浮かび上がる不思議な魅力のある舞台であった。
『贋作 マクベス』
 演技・演出・美術等、全てが中途半端でありながら決まっている。マクベスを演じることも「正直ちょっと面白かったよ」と言ってしまう伝統も権威も寄せ付けない若さがすがすがしくさえある。偉大なるクラス演劇と呼びたい作品。
『愛すべき蛙たち』
 振り返れば心地よい違和感がテーマであったのかと思う。許されるギリギリの変な感じ、でもキレイ。全体も劇的に盛り上げることなくまとめていく一貫した姿勢があり秀逸。期待と興奮のまま最後まで見せられてしまった。
『クラゲクライシス』
 ほぼ最少の人数と装置で、背伸びして大きく多く見せようとしなかったことに大変好感を持った。題材は文芸部であるが、実は世の
中のどこにでもある現代の弱くて小さい人間関係のありさまを見せてくれた貴重な舞台である。
『どよ雨びは晴れ』
 良く書けた一場の台本を、古典的だが立派な装置に、見た目普通なのに個性的な役者を多々配して、見せるのはその素晴らしいアンサンブル、そして演出の妙。笑わせる部分が多くテーマがはっきり立ち上がらないが、ここまでやってくれれば文句はあるまい。
『ぽっくりさん』
 本当の演劇的な「かっこよさ」とは何だろうかと問いかけてくれた舞台は、一時期の小劇場的であるといい捨て置けない迫力あり、緩急を心得た演出と歯切れのよい演技とで盛り上がりを見せ、照明を効果的に使って観客を魅了した。
『心の向こうに』
 身近な生活環境に取材した台本は問題を残しながらも笑いや空想に走らず好感が持てた。
楽しみながらも精一杯演劇に取り組もうとする姿勢が伝わり、地元の期待に十分応える熱演であった。
『しこみ〜おいしいラーメンの作り方〜』
 「あぁ、どこでもこうなんだなぁ」、上演に向けての苦労が分かる同じ演劇部関係者として共感する者も少なくなかったろう。一杯に飾って薄くなった舞台をフルに使おうと演技の処理に苦心したと思う。良くやった。
『モンタージュ〜はじまりの記憶〜』
 登場人物は少ないが、部全体で真剣に芝居作りに取り組んだことが分かる。いわゆる既成作品が少なくなった昨今の大会としては大きな成果であり、大会の最後を飾るにふさわしい美しい舞台であった。
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 大会についていくつか記しておこう。
 この福井大会では生徒講評委員が組織された。委員は地元だけでなく全国から参加し、講習会の分科会ともなり表彰も行った。コンクールが全体のレベルアップの牽引を一つの目的とすれば、主催者は責任ある評価を出すためプロ等の審査員に委ねるのは一理ある。が、高校演劇は高校生こそが作り楽しみ味わい成長の糧としている。やはりその高校生自身も評価者となるべきである。課題は多かろうが取り組むべきだ。来年度以降に期待する。
 今大会では審査員奨励賞が与えられた。賞を与える規程の四校より優秀と思われる上演数が多かったのだ。全国の大会である。十一校の上演で優秀、最優秀は四校とは適当なのか。全国大会で十二校上演が提案されているようだ。問題があるのは分かるが、表彰の数を増やすことも考えて良い。
 それはさておき、やっぱりお芝居っていいなぁ。今時の高校生もなかなかやるじゃないか。といった福井大会だった。
(東京都立小岩高校教諭)