幸せな6時間40分

14日日曜日は、東京でマチネ(昼の部)とソワレ(夜の部)を2本はしごした。マチネは新宿で青年劇場第111回公演「羽衣House」(篠原久美子=作 ふじたあさや=演出)。作者の篠原さんは、中国ブロックや東北ブロックでも審査員をやっていて、その講評たるや感銘ものである。その篠原さんの新作、うん、いいです。会場は新宿・紀伊国屋ホール。学生の時初めてつかこうへいの「銀ちゃんのこと」(「蒲田行進曲」の前タイトル)を観て感銘を越えて鳥肌が立って以来、何回も来た劇場だが、やはり時代を感じさせる。特に「あれ、紀伊国屋の舞台ってこんなに狭かったっけ」と思うほど、狭さを感じる。(まあ、舞台上にやたらとものがあるのだからだけど。) そうか、最近は紀伊国屋サザンシアターに行くことが多いから、そう感じるのだろう、と気が付く。そうだ、久々の本家紀伊国屋ホールなのだった。会場は満席。チケット完売である。だが、どこの劇団でもそうだが、昼は売れるらしい。夜がダメらしい。確かにたまに平日の昼に観劇に行くとけっこう人が入っている。ただし、観客は高齢者が多い。つまり高齢者は昼間芝居を観に行く。学生やサラリーマンは夜芝居を観に行かない、ということだ。たまに1週間の公演期間でマチネがほとんど、と言うスケジュールの芝居がある。まあ、そういうことなのだ。確かに今回の公演も、私より年下と思える人を探すのが難しかった。いや、これホントですよ。そういうことなのだ。 夜は、と言っても、18時の回だが池袋の東京芸術劇場地下のシアターウエストに行った。作品は「見よ、飛行機の高く飛べるを」(永井愛:作)。東京演劇大学連盟の公演である。東京演劇大学連盟とは、日本大学(芸術学部)、桐朋学園芸術短期大学、桜美林大学、玉川大学、多摩美術大学の演劇系学部、学科を持つ大学の連盟組織である。昨年発足し、各大学から学生が集まって合同公演を行う。昨年第1回は劇団養成所の卒業公演の定番「わが町」(ソートン・ワイルダー)で、第2回の今回が「見よ」である。で、この演劇大学連盟公演、大学生としては相当にレベルが高い。それはそうだ、演劇系大学の選抜部隊(舞台)だ。今回の演出は、茨城の全国大会で、審査員をやっていただいた越光照文先生。この方、パッションの方だ。熱い方だ。気合の方だ。学生たちは相当鍛えられただろう。ところで、客席を見回すと、今度は私より年上と思われる方を探すのが難しかった・・・。 開演前に、上演時間のアナウンスが役者の一人によってなされる。「上演時間は途中休憩10分を入れて3時間20分です。」 客席、一瞬ひるむ。な、長い・・・。開演前のアナウンスで一番緊張するのが上演時間の発表である。(書いて貼ってあることも多いけど) だって、それによって家に着く時間とか、食事をする時間とか左右されるのだから。「1時間50分」と2時間を切ってくると、客席に安どの雰囲気が広がる。よし、帰る前に軽く飲めるかな、と。「1時間30分」と言われると「ちょっと短いかな。ちゃんとオチがつくのかな」と芝居内容に不安になる。だが、最近はめったにそうことはない。だいたい2時間30分を越えてくる。そして「3時間越え」を宣言されると、芝居がつまらなかったらどうしよう!と不安になる。 「見よ」は長い芝居である。実は自分も前の学校で取り上げたことがある。だからよく知っている。戯曲そのものは素晴らしい傑作である。しかし傑作を傑作上演にすることは難しい。今回の公演は、Aチーム、Bチームのダブルキャストである。日曜日はBチーム。そして2日前の金曜日初日はAチームで、これにも行った。Aチームは、メインがだいたい1、2年生あたりで、Bチームは3、4年生が多い。勢いのAチーム、達者なBチーム。だが両方ともにはまった。戯曲自体がよい上に、レベルの高い学生たちが、レベルの高い指導者を持っているのだから、そうなるのだろう。桐朋の音楽チームがBGMを生演奏する豪華版。テーマ曲が耳について離れない。2回目ともなると、セリフと芝居の流れが掴めているので、より深く入っていける。Bチームの延ぶ役の子の声質が、自分の学校でやった時の子とそっくりで、思わず当時を思い出す。初江もイメージ通り。「見よ」は明治時代の同世代の子たち(16~19歳)を描いているので、学生演劇にはよいのである。この作品はラストが難しい。さらっと終わるのだが、その終わらせ方が難しい。延ぶ「ねえ、どうするの?」 初江「うん、やる」 台本ではしっかりと終わっているのだが、やってみると難しい。だがこの公演ではちゃんと「落ち」ている。もう一つ、女子師範学校の先生たちや小間使いのおばあさんも出てくるが、ちゃんとその年齢に見える。腰の曲がったおばあさんと光島延ぶが並ぶシーンがあるが、とても同じ大学生には見えない。つまり「若い人」は稽古によってどんな年齢でもそう見せてしまう特権があると言うことだ。中年は中年の俳優が、老人は老人の俳優が演じるべき、だから若い人は若い役を、と言う論もあるが、それを恐れることはない。高校演劇だって、女子はおばあさん役や少年役がやたらうまいではないか。久留米大附設の男子は女子高生役がうまいではないか(?) 要は稽古なのだ。これが「若くない人」だとこうはいかない。どんなに稽古しても、中年の方々に高校生役は難しい。(けっこうやってるけど) 今流行のシニア劇団が、全員高校生役やったら、それはそれで面白いけどね。 とにかく、先週に引き続き、高校演劇OBOGとも言える若い人々の芝居を観て、とても刺激を受けたのでした。「見よ、飛行機の高く飛べるを」ますます好きになりました。Aチーム、Bチーム合わせて6時間40分の観劇。幸せな時間でした。やっぱり若い人はもっともっと芝居をやるべきだし、観るべきですね。と、ついつい若くないことを言ってしまいました。
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