「本当に新入部員は増えたのか」またまた番外編③

9月中旬・・・文化祭まであと一週間。まだ後半が全然できていない。娘の演劇部と養成講座のお父さんたちで劇作りをするシーンである。だが、連休になる。ここが勝負だ・・・と考えていたら、なんてこった、体育祭の後の反省会で食べたレバ刺しがあたったか、疲れがどっと出たのか、高熱を出してしまった。連休初日は何もせず、帰宅。そのまま翌日も高熱でダウン。ああ、連休がつぶれてしまった。部員たちは台本ができてない中の自主練習となった。その翌日も熱が下がらず、学校を休む。まずい、あと四日しかない。焦る。焦っても体が言うことをきかなければしょうがない。

 

翌日、火曜日。ふらふらしながら学校へ。午後になると体調がよくなる。もう練習しながらセリフを作るのは時間的に不可能なので、セリフをノートに書いて渡すことに決める。書き始める。役者の動きやキャラクターを想像しながら。途中まで書いて部活に行き、「覚えといて」と手渡し、去る。 練習見る余裕なし、気力なし。

 

水曜日。文化祭準備、午後から。この文化祭のいいところは担任を頼らないところだ。空いた時間はもちろん台本書き。だんだん支離滅裂な話になっていく。まあ、いい。ようやく、このシーンの終わりが見えてきた。人数分コピーして部活に行き、「覚えておいて」 あと2日。

 

木曜日。一日文化祭準備。担任として何もやることなし。いいなあ、この文化祭。ラストのシーンを考えるが浮かばず。もうこうなったらその前のシーンで強引に終わらせるか。もともと支離滅裂な話だし、部員たちが練習しているダンスでも入れて華々しく幕を下ろしてしまおう。午後、部活に行き、昨日できたシーンの稽古。ダメ出しはほとんどしない。セリフが入っているかどうかだけ。部員たちも焦っているのだろう、よく覚えている。

 

金曜日。敬老の日。一日練習できる。ありがたい。体調もいい。朝、車で来る途中で思いついたラストのシーンのセリフを紙にささっと走り書きして、すぐに稽古開始。父と娘に無理矢理その場で覚えさせる。前場面の支離滅裂さから一転、情緒的な会話。何なんだ、この劇。最初から、作ったシーンを全部つなげてみる。始まりの二場面は部員たちが作ったお父さんと娘、お父さんと家族のコントのようなシーン。それから本編にはいる。大道具はとにかくでかい物を作りたがっている大道具班たちが、台本の遅れを物ともせず、無理矢理作った茶の間の舞台。でもこの話、場所がころころ変わるので転換に四苦八苦。照明、音響もその場で決定。浅田美代子の「赤い風船」(知らないでしょ)で始まり、サザンの「パシフィックホテル」がかかってダンスで終わる何とも節操のない舞台だ。

 

一人妙におかしい男がいる。「養成講座」で出てくる田中さんだ。彼は田中さん役が必要だから「誰か男連れてきて」と部員に頼んだら、「彼は芝居ができる」と言って連れてきた二年生だ。だが全然芝居ができない。それがおかしい。「バカヤロー」のところはおかしくてたまらない。このまま下手なままでいてくれと願う。(彼は生徒会長であった。この田中さん役がいたく気に入ったらしく、そのあとも最後まで出演してくれた。いつの間にか演劇部員になっていた。テレビの収録では異様にはしゃいでいた。あれから14年・・・彼とばったり出会った。同じ県内の中学校の教員になっていた!文化祭の準備でホームセンターに生徒を連れて来たのであろう。楽しそうだった。) 結局本番前日に通し稽古できず。部員たちだけで翌朝通すことにする。私は観るのが怖いので、「クラスの仕事だ」とうそをついて行かないことにする。それにしても前日までに通せないで文化祭公演するのは何回目だろう。反省が活かされない。

 

文化祭・・・いよいよ初演の日。部員に「朝の通し何分だった?」と聞くと、暗そうに「1時間50分です」と答えた。な、長い。今回の劇は時間がなかったからコンパクトなものにしようと思っていたのに。だいたい1時間50分もかかったら、文化祭公開時間を過ぎてしまうではないか。でももう今更どうしようもできない。

 

初演。けっこううける。とりあえず何でもいいから笑ってくれないとこっちも気が気でない。田中さんのところはやはり異様な笑いに包まれた。はまるというやつですね。こういうのは練習してできるものではないし、練習すればするほどダメになる。再度下手なままでいてくれと願う。問題の高熱後に作ったシーン。覚えたセリフをただ言っているだけだが、勢いで出しているので、新鮮である。反応もいい。これも練習してうまくなると新鮮さがなくなっていくのだよなあ。芝居は難しい。公開時間を20分ほどオーバーして終了。多くの人が最後まで観てくれた。

 

アンケートもまあまあ好評。ラストのシーンはちょっとお父さんをいじめすぎたせいか、かわいそうだと不評。特にお母さん方に多い。でも一部若者には好評。文化祭はお父さん、お母さんなど観る年齢層が高くなるので、刺激的なものよりハートウォーミングな終わり方を求めるのだろう。とにかく初演は終わった。初演は当たり前だが一回しかない。明日以降はどんどん変わるとは言え、繰り返しである。とりあえず上演できた安堵感とともに、そこに至るプロセスの方がよりドラマチックであったと感じてしまう。初演は一番インパクトを残す。(終)

 

*この作品は完全にフィクションであり、 実在の人物・団体などとは一切関係ありません。一瞬特定の学校・作品を想起するかもしれませんが、「やっぱりフィクション」です。

 

 

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