例えばあなたが演劇部をもったばかりの新人教員なら⑤

「今日全部の上演が終わったら顧問研修会というのがあるんだけどね。」きさくなオジサン顧問は言った。

 

あなたは「やっぱり来たか・・・」と思うだろう。さっき大会のプログラムをぱらぱらめくっていると、A4サイズの「顧問研修会」の案内がはさまれていたのである。「審査員の先生方を囲んで広島の楽しい夜を過ごしましょう」とそのチラシに書いてある。やはりこの全国大会は、ただの観劇では終わらないのだ。顧問の先生方は研修しなければならないのだ。「研修」と柔らかめな言葉を使っているが、本当は「修行」なのだろう。「楽しい夜」と言っているが「厳しい夜」になるはずだ。「審査員の先生方を囲んで」・・・審査員の先生方を取り囲んで、高校演劇の見方、あり方、演技論、演出論を伝授しようと言うのか。この研修会は審査員養成講座の側面ももっているのかもしれない。

 

「あの、これって必ず出なければいけないんですか。」あなたは聞くだろう。「そんなことないよ、任意だよ。でも楽しいから、出てみるといいよ。」

 

そうやって、私を修行の道への誘い込もうとしているだろう。研修会が行われるのは、大きなホテルだ。研修所でやらず、ホテルを使うのはやはり「修行」のイメージを隠すためのカモフラージュなのだろう。それとも、合格しないものは朝まで研修なのだろうか。それにしてもこの参加費はどうだろう。初任教員の自分にとってはけっこうな額だ。それでも会場ロビーの一角に設けられた顧問研修会受付には多くの先生方がうれしそうに並び、うれしそうにお金を払っている。やはり演劇部の先生方はどこかおかしい。修行を受けることがそんなに楽しいのだろうか。いや毎年やっていると、滝の水を受ける修行のように、それが快感となっているのだろうか。

 

「車一晩置いていこうよ。」よくしゃべるオバサン顧問が、スマホから顔をあげて言った。顧問研修会が終わるのが9時。9時半の電車に乗れば帰れるじゃない。明日は7時の列車に乗れば9時にここに着くし。」 「どうします?」きさくなオジサン顧問は、あまりしゃべらないオジサン顧問に聞いた。「出ましょう!」とっても優柔不断だと思っていたあまりしゃべらないオジサン顧問がきっぱりと言った。「そうだよね、ここんとこ、毎年出ているしね。全国から来る人といろんな話ができて楽しいし、それに君のような若い顧問が来たら喜ぶよ。紹介するよ、みんなに。」(きさくなオジサン顧問) 「じゃあ決まりね。4人分申し込んでくるね。ああ、あなたの分は私たちで割って払うから。いいわよね、お二人とも。」 「あ、はい」(逆らえるはずがない) 「ありがとうございます。」(これは素直にうれしい)

 

よくしゃべるオバサン顧問は、二人からお金を受け取ると、顧問研修会受付まで走っていった。走っていって、すでに会計を済ませた他県(であろう)顧問たちと親し気にあいさつを交わした。

 

「あんな風に他県の人たちと仲良くできるのも全国大会ならだよね。」きさくなオジサン顧問は言った。「今日のホテル、いいところだからきっと料理もうまいんだろうね。」あまりしゃべらないオジサン顧問がボソッと言った。「いやあ、朝と昼、コンビニのおにぎりだろ。夜もこのまま帰ったら、きっと車の中でコンビニのおにぎり食べさせられると思ってさ。だから顧問研修会に賛成したんだ。」・・・「同感」きさくなオジサン顧問だけでなく、あなたまで声をそろえて言うだろう。

 

こうして、平成28年8月1日、演劇部をもったばかりの新人教員であるあなたは、初の高校演劇全国大会に参加し、さらに初の顧問研修会に参加することになるだろう。

 

新人教員の皆さま、8月1日はJMSアステールプラザでお待ちしています。夜の顧問研修会にもぜひいらしてください。同じ県のきさくなオジサン顧問に声をかけてください。きっと喜んであなたを案内してくれるでしょう。

 

                                             第1部終わり

 

第1部と書きましたが、第2部の予定はまだありません。(去年と同様、未完のまま終りそう)

 

明日から広島入りします。広島からレポートします。

 

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