もしかしたらあるかもしれない演劇部の話①

C県での県大会でブロック大会に推薦された。顧問はさすがにうれしそうにしている部員たちに言った。「この劇という飛行機を見事に空高く飛ばしてくれた、君たちのおかげだ、ありがとう。」 それまで感情をあらわにすることがなかった部員たちは、夏の終わり以降のつらく、苦しい日々を思い、声を上げて泣いた・・・そこで夢は醒めた。冬休みが始まって何日目かの、冬の太陽が窓いっぱいに差し込む準備室の午後2時過ぎ。一番眠たい時間で、実際イスに座りながら寝てしまう時間だ。

 

部員たちが声を上げて泣いた、のは夢だ。でもブロック大会に推薦されたのは夢ではない。確か、この作品を明日からでも稽古しようとしている部員たちにこう言ったのは覚えている。「あのね、次の大会来年1月だからね、もう今年は稽古しないよ。」部員たちは「はぁ?」って顔をしていた。

 

それはそうだ、県大会が終わって、期末試験、期末試験後には、3年生の演劇の授業選択者の卒業パフォーマンスが待っているのである。2本の劇を、同時にみていくのはなかなかきつい。昼は演劇授業、夕方は演劇部と、何だかよくわからなくなってくる。本職の教科もある。しかも演劇授業に至っては、11月になってから脚本を変更した。その後ろめたさもあって、県大会が終わったら、頭は完全に演劇授業の卒業パフォーマンスに移行させると決めていたのである。

 

その卒パも、成功裏に終わった。授業選択者と言っても多くは演劇部員である。そこに演劇部ではない生徒たちの躍進もあって、やっぱり高校生の、しかも三年生のやる芝居はいいよなあ、と極めて満足した公演であった。

 

そして冬休み突入。顧問は部活に出ることなく、他のブロック大会へと旅立った。毎年恒例のふらふらブロック大会を訪ね歩き、ヘラヘラするふらふらヘラヘラ旅だ。理想は吉田類の「酒場放浪記」である。なぜそこに行くのか、そこに行って何を得ようとするのか、そこで観た劇をどう咀嚼するのか、一切考えない。そういう話もしない。ただふらふらヘラヘラである。

 

一方、残された生徒たちはどうするのか。もちろん年内はその劇の稽古をしないように言われている。なぜだか顧問は別の劇の台本を渡し、グループごとに練習してみて、と言って去っていった。ぽかんとする、演劇部員。まさか、ここでも台本変更!いや、さすがにそれはない。ただいつも同じセリフ言っているよりはいいのではないか、とふと思ってしまっただけである。「ふと思う」が多い顧問なのだ。

 

そしてふらふらヘラヘラ旅から帰ってきた翌日の午後である。ふだんから眠い時間、寝てしまうに決まっている。今日も1日練習。年内の練習はあと2日である。さあ、何をする。顧問は朝来る途中「ふと思った」。

 

作業だ。舞台セットにしても、小道具にしても、衣裳にしてもまだまだ進化しなくてはならない。

 

かくして作業が始まることになる。年が明けてもずっと。何か昨年もそんなことがあったような、どこかで見た風景だなあ。

 

※文章、写真はフィクションです。(と誰も信じてくれませんが)

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