「本当に新入部員は増えたのか」またまた番外編①

リハーサルを含めて延べ9日間にも渡る北海道石狩支部大会も無事終わっただろうか。北海道ブロック大会に進む代表校の皆さん、がんばってください。そう言えば、今年は北海道大会から2校が来夏広島の全国大会に推薦される。春季全国大会も来春3月に北海道伊達市で開催される。だから春季には北海道ブロック枠と開催枠がある。夏季・春季で計4校。全国は北海道に多くを頼るのだ。

 

そして何よりも、全国最長、最多の地区大会を運営し、それに参加した、支部役員の皆さん、会館スタッフの皆さん、顧問の皆さん、上演校の皆さん、本当にお疲れ様でした。精も根も尽き果てた、でしょうか。シルバーウイーク・・・終わってしまいましたね。

 

さて、またまた「本当に新入部員は増えたのか」シリーズ番外編である。番外編ばかりで本編はどうしたのかと言われそうだが、いいのだ、本編はいずれ書くのだ。

 

今回は、千春も祐一郎も登場しない。登場するのはある演劇部の座付き作家(と本人は認めていない)の顧問「私」である。「私」は33歳で、演劇部顧問歴10年目。今から15年前の話である。祐一郎は当時40歳。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの頃である。一方「私」は、何本か台本を書いてそれがささやかに評価されていく中で、祐一郎のライバルと目されるようになっていた。しかしそれが重荷で負担で、何とか作家活動から逃れようともがき苦しんでいるのである。しかしそれがいつの間にか新たな作品を生み出し・・・

 

かつて、つかこうへいのエッセイで、虚実ないまぜの製作日誌があったが、そのようなものと思ってください。ただし、こちらは虚虚ないまぜの完全フィクションであることをお忘れなく!

 

 

2000年、夏・・・また気の重い季節がやってきた。部員とともに演劇活動をしなくてはいけない季節だ。別にしなくてもいいのだけれど、ここ数年一緒にやってきて、演劇部はやる気満々だからなあ。何と言っても気が重いのは脚本だ。脚本があれば「さあ、走ってこい」と顧問らしく、生徒たちを鼓舞することができる。共にその脚本の舞台化をより高いレベルで目指せばいいのだから気持ちは同じだ。しかし、当然脚本がない。ブラスバンドはいいなあ、楽譜があるんだから。どの演劇部でもそうだろう。脚本が最大の問題なのだ。去年、既成作品やったから、今年は「私に書け」と言わないまでも、目と態度で訴えてくるだろう。それをこの夏無視し続けることができるかどうかが、私の秋以降の生活に大きく影響する。学生時代にやっていたシェイクスピア劇団はよかったなあと思う。シェイクスピアの中から選べばよかったんだから。まあ。考えてもしかたない。暑い夏はビールがほんとにうまい。

 

夏休み始まる・・・いよいよ夏休み。今までは夏休みに学校にきてもなんだかんだ理由をつけて、部活に顔を出さず逃げ回っていたのだが、今年は合宿を夏休み初めに入れた。夏休み終わり頃の合宿だと、休みが終わりと思うと虚しいのと、本来秋作品のための稽古をすべきなのに肝心の台本が決まってなくて、筋トレとミーティングだけの暗い合宿になってしまいがちだからだ。それに自分が書く場合、合宿中監視、監禁されているようでいやだった。夏休み初めなら、筋トレ、エチュードだけでもつだろう。顧問も自由になれる。

 

行き先は山中湖。何で演劇やるのに山中湖なんだと思いつつ、生徒に新宿からバスで、自分は車で行く。ほとんど観光気分なので遅刻して到着。生徒は自分たちで練習をしていた。えらい、えらい。気楽に過ごせそうだ。早速車でドライブ。山中湖を一周。それにしてもテニスの合宿の多いこと。みんな健康的で明るそうだ。違和感を感じつつ宿へ。高校生の合宿が他にも3団体。超有名でオシャレな東京の私立高校もいる。なんか自分たちが田舎ものに見える。だいたい何で山中湖なんだ。これじゃ演劇やろうという気が起きないではないか。(自分はやる気ないんだけど) 合宿担当係を呼んでしかりつけたくなる。うちの合宿は1学期中に合宿検討委員会が発足されて、合宿プランを作り、手配をする。全部生徒がやる。顧問はついていくだけ。でも顧問としては合宿はやって欲しくない。だって学校にもすばらしい練習環境があるでしょう。教室と言う。時には視聴覚室と言う。そして時には体育館のステージと言う。そこで朝から晩までみっちり稽古すればいいじゃないの。でも生徒は合宿をやりたがる。教室でやれば補習中のクラスから「うるさい」と言われ、視聴覚室でやれば全国大会に出場する放送部から「どけ」と言われ、体育館のステージでやればバレーボールが次々に飛んできて稽古にならず、声を出せば怖いバスケットボール部顧問から無言のにらみが飛んでくるのでやはり稽古にならず、結局どこにも居場所がないのはわかるけれども。でも、山中湖に来たって居場所はないじゃないか。困ったもんだ。

 

翌日から生徒は自分たちで筋トレ、エチュードなど。顧問は自由行動となる。富士五湖を中心にひたすらドライブ。富士山も軽装でほんの裾野まで登ってみた。やはり自由はいい。もしかしてアイディアが浮かぶかもしれないと創作ノートを持っていったけど、劇のこと何も考えず。

 

夜のミーティングが一番いやだ。秋作品の検討をするからだ。これには顧問も出席させられる。「あの、今年は先生に書いてもらいたいのですが・・・」部長がおそるおそる切り出す。ほら来た、だからいやなのだ。「あ、そう。まあ、でももう少し考えてからにしようね」 平静を装いつつ軽く受け流す。ところで今回の合宿メンバーは2年生多数。1年生女子だけ4人。今年の新人勧誘は不作であったようだ。私は1学期は部活に顔を出さないので一年生はほとんど初見である。一人、明らかにうちの部活の連中とタイプの違う女子がいる。その辺のコンビニの前にたむろしているような感じの子だ。遅刻も多く、やる気も感じられない。明らかに場違いだ。「こいつは絶対すぐ辞めるだろう」(と思っていたら、その子は部長をやり、翌年主役をやり、大道具をやり、演劇まっしぐらの部員になってしまった。人は変わる。) と言うわけで、合宿は事故もなく、生徒は観光することなく、秋作品への成果も全くなく終わりました。

 

7月下旬・・・恒例のバトミントン部合宿参加。汗をどばーっとかいて顧問の先生方とビールを飲む。これだよなあ。演劇はこの爽快感がないよなあ。

 

8月上旬・・・部の夏休み前。やはりこのあたりで秋作品の方向性ぐらい決めたい。顧問創作でいくか、生徒創作でいくか、既成でいくか。既成は昨年限界を感じてしまったのでやはり今年は創作か。誰が書く? 生徒の無言の圧力。必死に逃げ道を探す。「前任校で『とんでもハムレット』と言うのやったんだけど、あれなんか今やると面白いかもしれない。今まで過去の作品を再演したことがないので、ここらで一回いいんじゃないか。これ10年前にこの地区で上演したんだよね。10年目の記念再演ということでさ」と心にもないことをいってひたすら逃げる。生徒はぽかんとしている。「よし、じゃあ、創作か再演か既成かでよく話し合っておいて。脚本ももっと読んだ方がいいな。ほらこんなに『季刊高校演劇』持ってるんだよ、オレ。(と、部員に二冊ずつ手渡す) これ本当に役に立つんだ。(実際は1編も読んだことがない) 結論は後で聞くから。じゃあ、私は帰る」と言って、逃げ帰る。そのまま夏休み突入。(続く)

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