本当に新入部員は増えたのか⑤

「本当に・・・」シリーズ5回目です。あきれないでください。

 

④「何がお前をここに来させたのだ」の呪文が下から鳴り響く中、千春は、次から次へと湧き上がってくる演出アイディアと必死に戦っているだろう。ここ最近、ずっとそうだ。勉強しようとすればするほど、下で稽古している芝居へのアイディアがどんどん出てきて、勉強に身が入らないのだ。「もう、やめてよ!明日の単語テストどうしてくれるのよ!」千春は、芝居の稽古場を自宅に作った父を激しく恨むだろう。昔からそうだった。父は昔から高校演劇一筋だった。学校を異動するたびに、その学校の演劇部を有名にした。転勤して1年目に県大会、ブロック大会は当たり前だった。3年目には必ず全国大会に行った。部員3人のアニメ系演劇部から、30人を超す体育会系演劇部に変わるのに時間はかからなかった。土曜も日曜も練習だった。休みの日に父が家にいることはまずなかった。公園に遊びに連れて行ってくれることも、遊園地に連れて行ってくれることもなかった。連れて行ってくれるのは、高校演劇の大会や発表会だけだった。小学生が高校演劇見ても面白いわけがない。この人たちは、高校生という青春そのものの中に生きているのに、なぜサッカーとかバスケットとかブラスバンドや軽音をやらないで、こんなこと(どう見てもへんなこと)をやっているのだろう。しかし、いつの間にか、演劇を観る目は肥えていった。へんなことをやっているように見えても、時に真実をついてくるような瞬間があることもわかった。本当に時にだが。そして父と意見が異なることも増えていった。簡単に言えば、父が「いい芝居」と言えばそれは自分にとって「悪い芝居」であり、父の「悪い芝居」は自分にとって「抜群の芝居」だった。この前の若柴S高校の春の発表会でもそうだったのだ。父は他の人には「生徒主体でやった」と言っているそうだが、それは嘘だ。いつものように、全部演出した。ただこだわり過ぎた。役者Aの手の微妙な上げ下げの動きに、稽古時間の半分を割いたのだ。おかげで役者Aはけんしょう炎となり、あれだけ稽古したのに、本番では半分も手を動かせなかった。だが、問題はそこではないのだ。こだわり過ぎなのだ。「私が演出すればきっと最優秀が取れた。」いつの間にかまた芝居のことを考えている自分を、千春は激しく責めるだろう。高校演劇は私の敵、こんなものは私の目の前からなくさなくてはならない。私の家からも、私の学校からも!

 

「確かにこだわり過ぎなのだ」祐一郎は、10分の休憩の後、自慢の稽古場の扉を開けるだろう。3年前、妻と娘の猛反対を「高校演劇はおれの全てだ」と押し切って建てたおれの稽古場。これで正月もお盆も夜も早朝も、好きな時に稽古ができる。夏休みは自宅で20泊の合宿ができる。費用はタダだ。素晴らしいじゃないか。細部にこだわって何が悪い。100%にこだわった演出が、100%の芝居を創るのだ。目指すのは完成度の高い芝居ではない、完成された芝居だ。

 

しかし、春の発表会の件以来、これまで認めたくなかった、認めようとしなかったことが現実として突きつけられてきたような気がする。高校演劇一筋30年。最初の10年は竹刀を持って演出していた。ある学校の創る芝居が理想だった。その顧問は竹刀を持って指導していた。それにあこがれた。灰皿を投げつけようとしたこともあった。10枚買ってきて、演出机に置いてみた。うまく飛びそうになかったので、稽古が終わった後投げる練習をしているうちに、校内禁煙となり、やめた。最近はほめる方針に変えようとしている。甲子園で優勝した監督がよく言うのは「昔はスパルタだったけど、それでは生徒がついてこなくなった。ほめるようにしたら、どんどん強くなった。今の子はほめると伸びるんです。」 だから祐一郎もほめてみた。いやほめようとしてみた。できなかった。「おお、ただのり~」ファーストネームで呼んでみた。生徒が全員ひるんだ。「今の芝居よかったよ。」生徒が全員さらにひるんだ。「・・・始めの2行だけはな・・・その後の4行はメチャクチャだ~。ぶったるんでる!スクワット200回!」生徒が全員ほっとした。ほめるのがうまい、若い顧問たちがうらやましかった。

 

「自分の手法はもう古いのか」 祐一郎はもう認めなくてはならないのかと一瞬あきらめかけるだろう。最近はプロジェクターで文字や画像を映す芝居が多くなってきた。前は「芝居は映画と違うんだ!」とバカにしていたが、けっこうかっこよく見えたりして、密かに自分用のプロジェクターを購入していた。ツイッターの用語とかネット言葉が出てくると訳がわからなかった。わかったふりをしてコメントをして、後で「現代用語の基礎知識」で調べたりした。それでもわからない時は娘に聞いた。娘はバカにした顔で教えてくれたが、ちょっと娘とのコミュニケーションが増えたようでうれしかった。そうだ、お父さんだって新しいことを取り入れているんだ。変わっているんだ。おれは古くない、間違っていない、悪くない。悪いのは、悪いのは、スマホだ」 祐一郎は再度、スマホに全ての責任を押し付けるという楽な選択をして、これまで3時間、そしてこれから4時間の稽古を再開するだろう。

 

もうあきれてますね・・・で、このシリーズ、全国大会前は、ここで中断します。いや、きのうも伏線を打っておいたのですが、ちょっと全国大会前、やることが積み重なってまして、そちらに集中したいな、と。いや、何も考えていないような内容ですが、書くのけっこう時間かかるんですよ、これ。しかも自分の中身の薄さを露呈して身も削っているわけで。

 

再開?全国大会終了後かなあ。でもきっと気が抜けて再開できないかもしれない。いや全国大会で10人くらいの方に、「続きが読みたいなあ」と声をかけられたら、書きますけどね。一応ストーリーは考えてあるんです。(結局書きたいんでしょ、と思いましたね)

 

そんなわけで、おお、今日は1週間前です。

 

さあ、カウントダウンを始めましょう。カーン1回!

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