本当に新入部員は増えたのか。久々編①

北海道ブロック大会の日程がアップされました。さあ、全国のブロック大会巡り好きの皆さま、まずは北海道北見へ集合ですよ。

 

さて、「本当は新入部員は増えたのか。」シリーズ、もう終わったのかと思っているかもしれませんが、そんなことはありません。忘れたころに、突如出現するのです。久々編①です。季節はまだ夏のままです。

 

 夏休みが始まった。Y高演劇部の稽古場は熱気に満ちていた。演劇を創る活動的な熱気ではない。一教室に43人が押し込まれ、その高校生の若さが排出する熱気、外気温35度、クーラーのない部屋で全ての窓を閉じて室温43度まで達した熱気である。今、発声練習が終わったところである。部長Mはたまらず、「窓を開けて」と1年生部員に指示した。「暑い~」「助けて~」と悲鳴に近い言葉を発しながら窓を開ける1年生部員に「静かに!隣の隣の隣の教室で補習やっているんだから。怒られるわよ。」と釘をさすことは忘れない。実際、隣の隣の隣の教室では、「実践対策夏季集中特訓飛躍的向上夢実現講座」という中国語のような英語の補習が行われていた。きのう部長Mと看護師志望になった副部長Tが、補習担当の英語科A教諭に、隣の隣の隣の教室を演劇部の稽古で使うことを伝えに行くと、A教諭は露骨にいやな顔をして「あなたたち、一言でも声が聞こえてきたら追い出しますわよ」と生まれつきの上品さを保ちつつも、鋭い眼光でおっしゃるのであった。「あの、その、演劇部ですから、声を出さないわけにはいかないのですが・・・」と部長がしどろもどろに抵抗を試みるが、その眼光はますます鋭くなり、部長が「あ、あ、あ、ですから・・・」と泣き叫びそうになると、すっかり部長を助けることに慣れた副部長が「すみません。絶対声が聞こえないようにしますから。ご迷惑はおかけしませんから!」とA教諭に謝り、半泣きの部長を英語科からひきずり出すのであった。

 

 「演劇部の稽古で声を出さないなんて無理よ!」ようやく自分を取り戻した部長は、自分を助けてくれたのにも関わらず、副部長に訴える。「大丈夫、声を出さないとは言ってません。声を届かせない、と約束したんです。あとで、教室の窓を閉め切って、3つ先の教室に声が聞こえないレベルの声の大きさを確認しに行きましょう。発声やセリフの稽古はその大きさまででやりましょう。あ、でも台本決まってないから、セリフの稽古ないじゃないですか。だったら、ジェスチャーゲームとか声出さないでやるエチュードにしましょうよ。」どちらが部長かわからない、副部長Tの見事な参謀ぶりであった。

 

 しかし、部長Mは、副部長Tの何気ない一言に、痛く傷ついていた。「台本決まっていないから」・・・。春の地区発表会で最優秀を取り全校集会で表彰してもらおうと訪ねて行った生徒会室で、生徒会長・千春に軽く一蹴され、投げつけられた言葉が蘇る。「悔しかったら秋の大会で賞状もって来なさいよ。県大会に行けるのは3校までよね。1校は若柴S高校に決まってるんだから、残りはあと2席よ。遠山G高校の若い顧問、最近やる気を見せているみたいよ。自分で台本書くって。うちはどうなのかしら。書き手いるの?ホンよ、ホン、ホンが全てなのよ。」妙に高校演劇の大会のシステムに詳しく、地区の情報を知っていて、台本のことを「ホン」と演劇人のように言う生徒会長に疑問を感じることなく、打ちのめされ、副部長に介抱されたあの日。あの日から心が晴れることはない。常に「ホンよ、ホン、ホンが全てなのよ。」という千春の言葉が頭の中で渦巻いている。1ヶ月間、「ホンはどこにあるの。私たちを県大会に連れていってくれるホンはどこにあるの。」と本屋を渡り歩き、ネットで検索してきた。しかし、ない。何と言っても今やY高演劇部は43人の大所帯なのだ。しかも全員キャスト志望だ。厚かましいのもほどがある、謙虚さがない、と心の中で毒づいてみても、自分も出たいから強くは言えない。「この中で、秋大会で照明と音響に回りたい人いる?」この前のミーティングで聞いたみた。誰も手を挙げず、うなづきもしない。それどころか断固受け入れ拒否を示すかのように下を向く。

 

 「1年生に照明と音響やらせちゃえばいいじゃない。」1カ月に1回部活に顔を出すか出さないかの、演劇部顧問・国語科のH教諭に相談すると、あっけらかんとそんなことを言う。「いや、そんなことしたら演劇部辞めてしまいます。せっかく人材豊富なんで活用したいんです。この前の春大最優秀も彼らのおかげだし。」「オーディションしたら。」「2、3年生が負けてしまいます。」「そんなに上級生って下手なの?」「はい、下手です。上級生をメインにしたら地区大会で終わります。」「じゃあ、1年生でやって、2,3年が音響照明?」「それは悲しすぎます。」

 

 特に3年生2人は、通常春大会で引退するところを、春大の結果に気をよくして秋大も出ると宣言したのだった。しかし、3年生で秋大会参加は普通は心強いものだが、この2人はどうもなあ、の演技力だった。ま、いいか、41人の予定が43人になったところで、大した問題ではない。問題はそこではない。

 

 部長Mは絶対不可能だとわかっていて聞いてみた。「あの、先生が私たちのために台本書くっていうのはどうですか。他の学校では顧問創作って多いんですよ。」「キャハハ~、あんた何言ってるの~、やだ~、キャハハ~」H教諭は、テンション高く、予想通りの返答をした。(続く)

タイトルとURLをコピーしました